「次の星組公演はこわいですねえ」
 と、デイジーちゃんは言う。
 たしか名古屋でだ。仲間たちがぞろりと5人、名古屋の喫茶店で顔を合わせていた。
「トウコちゃんがいないんですよ? でもって、加わるのはタニちゃんですよ。どうするんですか」
 心配事は、「歌」のレベルだ。
 星組のトップコンビは美形でゴージャス。しかし歌はかなりアレ。歌唱力スターのトウコがいなくて、ヅカを代表する音痴スターのひとり、タニちゃんが加わる、というと、観る前からデンジャラス。
「ワタルと檀ちゃんのデュエットをえんえん聴かされるわけだよね……すごいよね」
「そこにタニちゃんがハモったりしたら、どうするんですか」
「ワタルと檀ちゃんとタニのコーラス……ぶるぶる」
「そこに、ダブル音痴の娘役2番手のふたりが加わったら!」
「カノチカとウメ!! そんな、ジャイアン・リサイタル以上の破壊力になっちゃうよ!」
 てな、名だたる音痴スターの名をあげて戦慄するわたしたち。
 ワタルと檀ちゃんとタニとカノチカとウメちゃんの合唱。……くらくら。

「そのうえ、そこにケロちゃんまで加わったら!!」

 ちょっと待ってくれ、マイ・シスターズ。
 その面子に、わたしのダーリンの名を連ねますか、そうですか……。
 たしかにケロちゃんも歌はアレだけどなっ、音痴ってほどでもないと思っているのはファンの欲目? 欲目かな、しょぼん。
 カノチカやタニちゃんと同列に語られちゃったよ……。

 てな、スリルに満ちた星組公演初日。演出家は地雷と名高い谷&草野。期待よりも不安が高いぞ。チケットもぜんぜん売れてないぞ、とーぜん立ち見券なんか発売してくれなかったぞ、びんぼー緑野ピーンチ。

 ま、財布はひたすら軽いけれど、心は錦、弟よDVDの代金はしばらく払えないから待っていておくれ。金はなくてもムラには行くのさ。

 ミュージカル『1914/愛』。演出家は「皆殺しの谷」。とにかく登場人物を殺しまくり、人の死で場を盛り上げるこまった作家。主人公が登場人物全員から愛され、しかし彼は誰も愛することはできず、彼の身勝手な行動に大勢の人が無惨に無意味に殺され、最後は彼もよくわかんねー理由で子守歌なんか歌いながら非業の最期を遂げる。……という、壊れた物語をなんとかのひとつおぼえで描きつづける作家。自分を主人公にしたドリーム芝居を書き続けているのかもしれん……ぶるぶる。
 という、谷先生のオリジナル新作で、第一次世界大戦前夜のパリが舞台で、タイトルが『1914/愛』、だよ。
 終わってる、って気がしないかい?
 うわー、また派手に殺しまくるんだろーなー。
 カンチガイしたドシリアスで、暗くて重くて、一歩まちがうと眠いだけの話になるんだろーなー。
 戦争に引き裂かれる愛とか、ぐだぐだうっとーしいまでに悲劇をやるんだろーなー。

 しかも主役、シャンソン歌手とかいうし。

 ワタルに歌手の役?!
 いくらタカラヅカが夢の世界だからって、そんな無茶な!
 いや、彼は『月夜歌聲』でもたしか、京劇スター役だかで歌の才能ある人をやっていたけど。でもってよりによってキムくんに「歌を教える」というものすげー演出になってたけど。

 なんでワタルくんに歌手の役をやらせるかな。作曲家とかダンサーとか、歌を誉められなくてもいい職業にすればいいのに。

 と、さらに危惧ばかり抱えた『1914/愛』。
 予備知識を好まないわたしは、なんの情報もないまま、とにかく観に行った。
「でも今度の芝居、誰も死なないそうですよ」
 と、いつも予習ばっちりのデイジーちゃんが言っていたことが、耳の端に引っかかっていたくらい。

 コメディーだとは思わなかったよ……。

 谷せんせい……このタイトルで、この時代背景で、コメディやりますか。

 アリスティド@ワタルはモンマルトルのシャンソン酒場の経営者。でもってそこのスター歌手。彼のすばらしい歌声に客は拍手喝采。いよっ、天才歌手!!
 彼は弱い者、貧しい者の味方。口は悪いが、ハートはホット。店のもうけなんか度外視で、貧しい人たちに料理をふるまってやっている。
 そんなアリスティドだから、彼を慕っていろんな人がやってくる。
 売れない若い芸術家たちもそうだ。詩人のアポリネール@カシゲはアリスティドの店に謎の伯爵夫人@檀ちゃんを連れてきた。すべてが謎に包まれた美女は、貧しい芸術家たちにパトロンを紹介して回っているのだ。しかしこの伯爵夫人、貴族なのにアリスティドたちと一緒になって「反貴族の歌」を熱唱したり、なんか変。まあ、すべてに謎だから、謎の伯爵夫人という、こっ恥ずかしい名前を自分で名乗っているんだろう。
 「貴族がなんだ、べらんめえ」なアリスティドだが、実は彼は本物の貴族のおぼっちゃま。ある日彼は父のフルーレ伯爵@立さんの策略で、政略結婚をさせられそうになった! デキレースの「花嫁選び@歌がうまい娘さん募集」で、新作オペラのオーディションだと信じて参加した娘アデル@檀ちゃん激昂。嘘をついて人を集めるなんて! 夢をもてあそぶなんて!
 このアデルこそが、謎の伯爵夫人の真の姿。酒場のアリスティドの真の姿が伯爵家の若様だとは、思っても見ない。
 だからお互い、初対面じゃないのに、初対面だと信じる。
 そして「身分違い」の恋に落ちるのだ……。

 あのー、これ、「嘘からはじまった恋」ってやつですね?

 二重生活をしている男女が、うっかり素顔の方で出会ってしまい、仮面の方で知り合っているあの人とは知らずに恋に落ちる。
 現代に置き換えるなら、「ネットでは別人」とか?

 ハンドルネーム「謎の伯爵夫人」。
 タカビーな女王様。やり手で、多くの人を手玉に取る。(あくまでも、ネット上でのこと)
 ハンドルネーム「酒場のアイドル」。
 俺様で毒舌。柄が悪く、おっかない。(あくまでも、ネット上のこと)

 しかし、現実では。
 夢に向けて地道な努力をする真面目で清純な娘、アデル。
 礼儀正しく上品な青年貴族、アリスティド。

 ふたりは、ネット上で舌戦をかわした相手だとは知らずに恋に落ちる……。

 とか、そーゆー話ですね。

 実際に「会って、顔を見ている」のに、「別人」だと信じ込むのが愉快。ふたりともかけ離れたキャラクタを造形しているもんだから。

 いったいどーしたことだ、谷先生。
 谷先生の作品なのに、破綻していない。

 壊れてないよ、なんで?

 作品が壊れていないことでおどろかれてしまうくらい、谷作品って、壊れているのが当たり前でしょう??

 いや、そりゃたしかに、『なみだ橋 えがお橋』も壊れてなかったさ。あのときもおどろいたさ。谷先生が壊れていないものを書いた!てな。
 しかしアレは、ただのまぐれだと思ってたんだよ。偶然の産物だと思ってたんだよ。

 でも、またしても壊れていないものを作るなんて!!

 破綻していないモノも、作れたんだ!! 驚愕。

 しかも、恋愛モノだよ?
 谷先生がもっとも苦手とする。今までただの一度も、「人を愛している主人公」を描けなかった谷先生が、恋愛モノを!!

 谷正純に、なにがあったんだ?

 つーことで、翌日欄に続く(笑)。
 

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