コミケ2日目。わたしのメインジャンルの日。
 自分のサークルそっちのけで、お買い物に走り回る。わたしはコミケが好きで、同人誌が好きなのだ。
 ああそして。
 わたしは「そのひと」と出会ったのだ。

 出会いは一瞬だった。

「えっ、ゆうひ?」

 コミケの人混みの中、わたしは良く知る顔を見つけて振り向いた。
 今すれちがった女性が、ゆーひくんに見えたのだ。
 ゆーひ、って、おーぞらゆーひ? えええっ、なんでゆーひがこんなとこに?! でも今のゆーひだったよーな。つか、変装してたぞ?! 眼鏡かけて、スカートはいてた。マフラーで顎から下隠して、女装してたよ。
 あああ、落ち着けわたし。ゆーひがこんなとこにいるわけないじゃん!!
 見間違いだ、他人のそら似だ。
 しかしタカラジェンヌにだってオタクはいるだろうに、彼女たちはコミケに来ることができないんだ、気の毒に。コミケでやほひ本買ってるとことか誰かに見られたら、ものすげーイメージダウンだもんな。夢の世界の住人は大変だ、同人誌も買えないなんて。ああわたしは一般人でよかった。
 それにしても、さっきの子はゆーひくんに似てたなあ。もっとちゃんと眺めたかったなあ。
 と、思いつつ、某大手サークルさんの最後尾に並んだ。
 大手サークルさんには、「最後尾プラカード」というものが存在する。サークル名と「最後尾」という文字の書かれた紙を、列の最後に並んだ人が持つのだ。そーすれば係員がいなくてもどこが最後尾かが一目でわかる。
 わたしも、「***最後尾」と書かれた紙を掲げているお嬢さんに声を掛けた。「それ、次は私が持ちます」という意味で。

 再会は突然。

「ええっ、ゆうひ?!」

 わたしに最後尾プラカードを渡したのは、さきほどすれ違った、おーぞらゆーひくんだった。
 うわわわわ。
 運命? 神様コレ、運命ですかっ?!

 もちろん、赤の他人です。本物のおーぞらゆーひさんではありません。
 しかし。 
 しかしだ。
 似てるんだよ〜〜っ。
 どどどどどうしよう。
 ゆーひのそっくりさんが、隣にいるよお。
 一瞬間違えたくらい、似てるよお。
 背はたぶん、わたしより高いです。なのに、体重は確実に、わたしより少ないです。
 丸いやわらかそうな顔の輪郭に、本物のゆーひとほぼ同じ髪型。ちょいと離れた目。横から見える唇の形。
 薄い、少年のような細長いカラダ。長い手足。
 どどどどどうしよう。
 うれしい。うれしいぞ。ゆーひそっくりの美しいお嬢さんがわたしの隣に。
 いや、よく見ると本物のゆーひくんほど美形ではありませんでしたが、とにかく似ていた。この子を何割か美形にしたらゆーひになる、という、「アンドロイドゆうひ」の租型みたいなお嬢さんでした。年齢は本物のゆーひくんより少し若いかな。
 あまりにうれしくて、目をはなせない。どきどきどき。
 お友だちになりたい。ああしかし、話しかけるなんて、できないわっ。なんて話しかければいいの?!
「好きな男の子にそっくりなの」
 ……って、それは失礼だろう。わたしが長い間背が高いことをコンプレックスにしていたよーに(そう、マジに深刻に劣等感だったことがあった。今はさすがに、半分ネタにしているが・笑)、このお嬢さんだって「男に似ている」なんて言われたら「それってアタシがこの体型だからっ?!」とか思うよな。傷つくよな。つーかふつーの女の子は「男に似ている」と言われた段階でショックだろう。
 いくら、「でもその男の子、ドレス着ても似合っちゃうくらい美形なのよっ」と言っても、フォローにはなんねーよなあ。
 正直に言うか。
「好きなタカラヅカの男役にそっくりなの」
 ……って、ふつーの人って、「ヅカの男役」に偏見持ってる……かも? ヅカを好きじゃない人ってみんな、「気持ち悪い」って言うよな。「生理的にダメ」とか。「バカみたい」とか。
 てか、タカラヅカを好きだと言った途端、「緑野さんって、レズなんですか」と真顔で言われたこともあったな。一般人のヅカに対する認識ってそんなの?!
 うわあああぁん、言えない、言えないよう!
 てゆーか、ゆーひくんそっくりの友だちなんて、心臓に悪くてダメだよう。いつもうっとり顔ばかり眺めちゃうよう。そんな気味の悪い関係は、嫌だよう。

 結論。
 今、この瞬間の幸福を噛みしめていよう。

 長い長い行列の、建物の外に並ばされたんだけど、直射日光きつくて「真冬なのに日焼けしちまうよコンチクショオ」だったことも、ぜんぜん苦にならず。
 だって、ゆーひくんと一緒なんだもの!
 列が長ければ長いほど、ゆーひくんを眺めていられるんだもの。
 るるる、ららら、幸福なひととき。
 わたしのゆーひくんは、並んでいる間ずーっと、きれいに三等分されたコミケカタログを読んでいました。そっかあ、ハガレン好きなのかぁ(笑)。でも、この列(ラノベのプロ作家のオリジナル番外編が買えるサークルだ!)に並んでるってことは、ここの作家さんが好きなのよね。わたしと同じねっ。
 さりげなくもしつこく、ずーっと彼女の顔を眺めていました。列が進んで、微妙に並ぶ位置が離れてしまったときは、彼女の全身のスタイルの良さを堪能。ああ、七頭身。いいなあ、かっこいいなあ。

 緑野の、ささやかなしあわせ。
 でも、アタマの中ではエンドレスで『王家に捧ぐ歌』の女官たちの「すごっすごっ、つよっつよっ」が流れている……(ヅカサークルですてきな女官たちのポスカを買ったのだ。あと、アモちゃんとファラオの缶バッジと)。

 自分のサークルに戻るなり、店番のWHITEちゃんに、
「聞いて聞いて! ゆーひのそっくりさんがいたのーっ!!」
 と、鼻息荒く報告。
 上記の心の流れを事細かに説明したんだけど……。

「よかったね。……としか、言えないわ」

 と、冷たく言われて、それでおしまいでした。
 彼女の目は、「バカだなオマエ」という憐憫と、「なにか気の利いた受け答えをしてやるべきかしら」という困惑に満ちておりましたさ……。てか、単に引かれたのか……?
 ふふふ……ごめんね、WHITEちゃん……。

 文字数足りないので、次の欄につづく。

          

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