前日からの続き。

 ジュンに続いて、ユウジまでもが「人魚」……水死体になった。

 愛するユウジを失い、ツグミの狂気はひどくなっていく。

 こんなはずじゃなかった。
 ジュンを失い、ユウジを失い……ツグミにはもう、カツヤしかいない。ツグミはカツヤを愛するしかないんだ。
 なのにツグミは過去を見つめる。もうひとつの人格ジュンになり、ユウジを愛し続ける。
 絶望したカツヤは、さらに決意する。

 ジュンを、殺すことを。

 高校の卒業式の夜。
 ツグミ(ジュン)とカツヤはユウジの分の卒業証書を持って、ある廃校へやってきた。
 ツグミとジュンの通った小学校だ。小さな分校だったのだが、ついに廃校になってしまった。ユウジの卒業式をする、という名目だった。

 そこでカツヤは、ジュンを殺した。
 崖下の磯へ突き落とした。

 ジュン……すなわち、ツグミを。

 愛が欲しかった。
 はじめて会ったときから、ずっと。
 ただただ、彼は彼女の心を求めた。

 人魚姫を信じていた、美しい少女に恋をした。

 求めたのは心なのに、まず躰を蹂躙した。
 それは少年が、大人になろうとしているまさにそのときだったから。

 遺体はあがらなかった。
 ツグミは今も海にいる。

 カツヤは漁師になった。
 ツグミが眠る海で網を投げる。

 人魚を、いつか見つける日が来るかもしれないから。

 廃校となった小学校で、いかにもふつうの美人OLに見えるツグミが『人魚姫』の絵本を眺めている。
 昔好きだった絵本。恋した挿絵の王子様。
 今日は同窓会。
 高校卒業以来会っていない友だちに会うの。
 幼なじみの親友、ジュンちゃん。いつも一緒だったわ。小学校の卒業式の日、一緒におぼれたっけ。あのときあたしたち、人魚に会ったのよね。
 高校のときは、同じ男の子を好きになっちゃって、大変だったわ。
 高校の同級生、ユウジ。ジュンちゃんの片思いの相手。軽薄でおしゃべり、でもかっこいいの。どうしてあの日あたし、彼としちゃったのかなあ。いけないことだって、わかってたのに。
 元カレのカッちゃん。武骨で無口で、でもとびきりやさしい人。やさしすぎるから、それにあたしが甘えて、ダメになっちゃったんだよね……。

 テレビドラマで何度となく目にしたような、そんな関係、シチュエーション。
 ふつうの女の子がふつうに成長して、進学して就職して、経験するふつうの人生。
 ツグミは微笑みながら、回想する。
 自分が決して、得られなかった人生を。回想……想像する。
 たのしかった中学時代、初恋の想い出、友だちがいっぱいいた高校時代、都会でのひとり暮らし、会社と恋とおしゃれと海外旅行、それから、大切な想い出。
「そうね、昔はたのしかったわよねえ。今はだめよお、トシとっちゃったもん。高校卒業して何年? あー、変わっちゃったよねー、あたしもー」
 なつかしい場所で、なつかしい人に再会し、
「変わってないな」
「変わったよ」
 なんて笑って話す。

 彼女がついに一度も、得られなかったもの。

 その日、10年ぶりに遺体があがった。
 「人魚」として、漁船に発見された。

 海で死んだ4人の罪びとたちが、再会した。
 カツヤもまた、ツグミの遺体を探す人生のなかで命を落としていた。

 子どものまま死んだジュンは、汚れを知らぬまま高校生の少女の姿をしている。
 無邪気にやさしく寛大に、慈悲にあふれた笑顔でツグミを抱く。
 ツグミが求めたままの姿。
 「少女」という永遠。
 大人の姿をした、汚れたツグミを抱きしめる。

 卒業式の日、人魚を求めた4人の少年少女たち。
 子どもの時間の終わり。
 有限の楽園をあとにし、性を持たない聖なる生き物から、汚濁を背負った大人へ。

 人魚に会いたかった。
 人魚に会いたかった。
 人魚になりたかった。

 破り捨てた最後のページ。
 泡になって消えていく人魚姫。

 いま、にんぎょたちがひかりのなかへかえってゆく。

          ☆

 てな。
 長々と自分のための私感『人魚姫』。
 解釈が正しいかどうかなんぞ、知りません。わたしはこう思いたいから思っておくのだ。

 芝居としては、

1.同窓会。大人になったツグミ、ジュン、ユウジ、カツヤが廃校に集まる。
2.一見仲良しグループ。しかしほんとは、恋愛関係でドロドロしていたことが明らかになる。
3.ジュンがもう死んでいることが発覚。(でも舞台上にはちゃんといる=つまり幽霊)
4.ジュンは高校の卒業式の夜、この廃校で死んだ。殺したのはツグミ?
5.ユウジがもう死んでいることが発覚。(でも舞台上にはちゃんといる=つまり幽霊)
6.ユウジの死が、ジュンの自殺の原因?
7.ジュンは小学校の卒業式の日に死んでいた。殺したのはツグミ?
8.高校時代のエピソードは全部ツグミの妄想。
9.狂っていた高校時代のツグミを、それでもカツヤは愛していた。
10.だがツグミはユウジを愛した。ジュンという別人格を借りて。
11.カツヤ、ユウジ殺害を自供。ツグミへの愛ゆえに。
12.カツヤ、ツグミ殺害を自供。“4”はそのままツグミのこと。
13.ツグミ、カツヤともに死亡を自覚。(舞台上にいるのは幽霊)
14.カツヤの自供により、4人が高校以前に出会っていたことがわかる。
15.カツヤは小学校の卒業式の日に、ツグミをレイプしていた。
16.すべては、人魚のミイラを見に行った12歳のあの日に起因しているのだとわかる。
17.ずっとなくなっていた、『人魚姫』の絵本の最後のページがツグミの手に戻る。
18.ジュン、ユウジ、カツヤの順に昇天していく。
19.光の中で、ツグミが微笑む。

 という流れだから。
 時系列、めちゃくちゃ。
 わざと事実を伏せて、ミスリードさせて、ミステリにしてあるんだよねえ。
 アンフェアぎりぎりの叙述トリック。地の文に嘘がある。なんつっても、ツグミの一人称みたいなもんだから。

 なんとも救いがなく、痛い物語。
 ラストは美しいんだけど……そこにたどりつくまでが、痛い痛い痛い。
 こころの奥にあるやわらかいものを、ぐさぐさと傷つけられる感じ。

 オギーはヅカ以外だと露骨に「セックス」を題材に持ってくるね。『左目の恋』もそうだったけど。
 すみれコードゆえに描けないモノを、こうやって描いてくれるのはありがたい。
 女の子が主役ってのも、ヅカではできないことだしね。

 オギーの現代物を見たのは、はじめてだ。考えてみれば。
 ……ちょっと、笑った。
 だってさ、ものすごーく言葉遣い、がんばってるんだもの。
 「現代の若者っぽい言葉遣い」にしようと、そりゃーもー、ものすげーがんばってる。
 でもさ、やりすぎ(笑)。
 かえって嘘くさいってゆーか、耳障り。
 「みたく」とか「てゆーか」とか、全員が連呼するのよせ。軽薄なユウジとか、ふつうの女の子っぽいことにこだわっているツグミとかならまだいいけど、武骨なあんちゃんのカツヤだとか、子どものままのジュンにまで言わせるのはよせ。
 クドカンをめざす必要はないんだからさー。舞台上でさえ「現代らしく」あれば、いつものオギーらしい日本語でもいいと思うんだけどなあ。

 いやいや。
 オギーの現代日本物。オギーのストレートプレイ。
 ヅカでは見られないだけに、いいもん見ました。

 文字数足りないので、次の欄につづく。

       

コメント

日記内を検索