本日は「1万人の第九」通常練習の最終日。
 受付で出席カードにスタンプを押してもらったときに、楽譜を渡された。

 は?
 なんで最終日に、楽譜?

 楽譜は森山直太朗『さくら』の、1万人の合唱バージョン、らしい。
 あ、直太朗は、今年のゲストね。彼が同じステージで『さくら』を歌うのは周知の事実。

「急遽、森山直太朗さんの『さくら』に、1万人でコーラスを入れることになりました。楽譜が刷り上がったのが、つい数時間前です」

 ヲイ。
 なんじゃそりゃあ。

 まあ、最終日に渡されるくらいだから、超簡単な、サルでも歌える類のコーラスなんだろう。

 そして、練習開始。
 …………。

 あ、あれ?
 ものすげー音取りにくいんですが……。

 一通りメロディをなぞったあと、先生が言う。
「……とまあ、こんな音楽になります。無謀ですね」

 はい、無謀です。……って、せんせーが言っちゃうんですか。

「やたら高いし、複雑だし……いきなり歌えといわれて、歌えるわけないんですけど、決まってしまったので、みなさんそれなりにがんばってください」

 歌えなくて当然、てことですか……。
 ははは。

 わたしときんどーさんは、いちいち顔を見合わせる。
「ねえ、歌える、これ?」
「楽譜読めないっつーに」
「気を抜くと直太朗のメロディになっちゃうよ。コーラスのメロディがわかんなくなる」

 去年の平井堅の『大きな古時計』は、楽譜なんかなかったけど、1万人でコーラスを入れた。なんの説明も練習もなくてOKだった。堅ちゃんと同じメロディを勝手に歌ってればよかったんだもの。
 しかし今年の『さくら』は、本気でコーラスアレンジがしてある。
 ソプラノとテナーは、ものすげー高音だ。わたしはアルトだからまだマシだけど、それでもけっこう高いぞ。てか、ソプラノと1音ずつちがうだけとかだと、音感に乏しいわたしははてしなく迷ってしまうんですが。
 まいったなぁ。

 しかし、あとから来たあらっちは言う。
「すっごいきれーなコーラスだったよ? いつから練習してたの?」
 いや、ほんの20分前から。せんせーが1回歌ってくれたのを、みんなでなぞって歌ってただけ。
「そうなの? 遅れて教室に入ったら、知らない曲をすごいきれーにハモって歌ってるから、びっくりしちゃった」
 そうなの? わたしはアルトの音を耳で拾って同じ音を出すことだけに必死になってたから、全体がどんなふうに響いていたかなんて、さっぱりわからないよ。
 そうか、それでもみんな、きれーにハモってたのか。わたし以外の人たちの功績だな。

 コーラスの練習をしながら、わたしが考えていたことは、だ。

 1万人に『さくら』のコーラスを急遽させることなんかにしたら、みんなあわてて練習の参考に、と、CDを買うじゃん。
 1万人が、直太朗のCDを買う。
 ……それって、めちゃおいしいじゃん。
 実際に買うのが半数だとしても、5000人だぞ?
 CDの世界はよくわからないが、出版業界だと1万部の固定客は、大きいぞ? 1万部増刷かかるのが、どれほど大変なことか……!

 わたし、次に機会があったら、「1万人の第九」が深く関係する小説を書く! そして、1万人の固定客を掴むわ!!

 ……なんて、夢見てるヒマがあったら歌の練習しなさいって。

 

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