バナさんに会った。
 バナさんは、中学の同級生だ。

 信号待ちをしているとき、隣にいる女の人の顔をなんとなく見た。あれ?
「……バナさん?」
「ええっ? うわっ、ひさしぶり」

 最後に会ったのは、いつ?
 高校のとき?

 中学生だったわたしが、いちばん仲が良かったのがバナさんだ。
 演劇部で、彼女が部長、わたしが副部長。体育会系文化部だから、ジャージ姿で柔軟やら発声練習やらやっていた、相棒だ。
 バナさんはひとことで言うと「優等生」って感じの子だった。成績優秀、容姿端麗。理路整然、勤勉実直。リーダー気質でちょっと融通が利かない、でも天然入ってたりする愛すべきキャラクター。
 彼女が三田村邦彦のファンで、トークショーやらなんやら、ふたりで行ったなあ。この間なつかしく思い出していた、新撰組ドラマの『壬生の恋歌』も、ふたりで毎週たのしく見ていたなあ。

「何年ぶり? 今どうしてるの?」
 車がぶんぶん走る道路の脇で、思い出話に花が咲く。

 他のみんなはどうしてるんだろう。
 当時仲が良かったあの子たち。
 我が家は仲間たちのたまり場だった。わたしの狭い狭い部屋に、折り重なるようにして寝ていたねえ。

「で、あなたは今、第九の練習の帰り?」
 バナさんはさらりと言う。
 いや、わたしはヅカの前売りに並んできた帰りで……へ? なんで第九?

「『1万人の第九』、参加してるんでしょ? わたしも去年から参加してるの」
 たしかに参加してるけど、なんであなたが知ってるの?

「だから去年、プログラムで名前みつけたから」

 みつけた? プログラムで?
 ちょっと待て。

「1万人の寄せ書きのなかから、わたしを見つけたってことっ?!」

「ええ。あなたの字、独特だから。あら、緑野さん参加してるんだわ、ってわかった」

 20年会ってないのに、字でわかったんかい!!
 つーか、1万人だよ?! 1万人が寄せ書きしてる、あの米粒みたいな字で、わたしを見つけたってか!!

 プログラム、買ってるんだ。(わたしは買ったことない)
 寄せ書き、わざわざ読むんだ。(わたしは読んだことない)
 ……というツッコミも、同時にわき上がった。

「だってほら、去年が初参加だから」
 うれしくて、記念に買って、記念に熟読したらしい。
 それにしても……なんでわたしの名前を見つけちゃうのよ? 会場では会えないのに。(1万人だから、会えるわけない。他にも参加していることを知っていて、「会えたらいいね」と言いつつ会えない人が何人もいる)

 わたしの字、そんなに独特ですか?
 たしかに、わたしの本名は画数が極端に少なくて、縮小印刷したらそこだけ白く見えるかもしれないけど。
 20年ぶりに友人にばったり会ったこともびっくりだが、それ以上にびっくりだよ……。

 

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