ふつーでないイキモノのために奔走する、ごくふつーの人々。@えびボクサー
2003年10月26日 映画「ねえ、『えびボクサー』って、どうよ?」
それはたしか、『呪怨2』を見に行ったときでした。その映画館のロビーには、小さな水槽が置いてあり、「えびボクサー」と手書きポップが添えてあった。中には、ザリガニ?らしき甲殻類が隅っこでうずくまっている。わたしたちが見た『呪怨2』は最終上映。そのあとに控えているのはレイトショーのみ。レイトショーは『えびボクサー』。
『えびボクサー』って、なんだろう? ポスターは1匹の赤いえびのアップ。赤いボクシンググローブつき。“もう海には帰れない!”
そのよくわからない映画のために、列ができている。今どきのおしゃれな若者たちが、赤いグローブをつけた赤いえびの写真の型抜きになったパンフレットを持って、たのしそうに並んでいる。
内容がぜんぜん想像できない。どーゆー映画なんだ? 『えびボクサー』って。
でもまあ、こんな小さな映画館の、しかもレイトショー限定だし。きっとただのB級映画よね。
わたしとWHITEちゃんは、なまぬるくスルーした。
しかし。
日々は過ぎ、季節は秋になった。
「ねえ、『えびボクサー』って、どうよ?」
WHITEちゃんが、ふたたび言う。
「まだレイトショーやってんだけど」
は? まだ、やってる? って、なにそれ。『呪怨2』のときにやってた映画だよね? あの映画館のレイトショーなんて、通常2週間、下手したら1週間で終わるよねえ?
「かれこれ3ヶ月もレイトショーやってんのよ。それってどうよ?」
さ、3ヶ月? それって、めちゃくちゃ大ヒットじゃん。てことは、おもしろいの?
「さあ……なにしろ、周りに見たって人がひとりもいないからねえ。でも、どうなんだろ、『えびボクサー』」
『えびボクサー』って、どうなのよ?
たしかに、一度見たら忘れられないポスターだし、タイトルだけど。
あの映画館で、3ヶ月のロングラン。
そんなにおもしろいなら、見るしかないよなあ。
ということで。
WHITEちゃんとふたりで行って来ました、レイトショー。
……どんな話だと思う?
『えびボクサー』だよ?
答え。
タイトルまんま。
えびがボクシングをする話。
監督・脚本マーク・ロック、出演ケヴィン・マクナリー、ペリー・フィッツパトリック、ルイーズ・マーデンボロー。
若いころはそこそこ活躍したボクサーだったけど、今は人生終わってるデブ中年男ビル@ケヴィン・マクナリーは、何でも屋のアミッド@マドハヴ・シャルマから儲け話を持ちかけられる。それはなんと、「体長2m10cm」の巨大えびに人間相手にボクシングをさせる、というものだった。
全財産をつぎこんで、その巨大えびを買ったビルは、後輩のアマチュア・ボクサー、スティーブ@ペリー・フィッツパトリックと、スティーブの恋人シャズ@ルイーズ・マーデンボローの3人で、いざロンドンへ!!
テレビ局に企画を売り込むのだけど、相手にされない。色仕掛けに奇襲、なんでもござれ。ついにあるプロデューサーに認められ……。
なんというか。
映画って、すごいなあ。
視覚のおもしろさっていうのは、理屈じゃないんだよね。
安ホテルのベッドに、イケてない中年男と、もっさりした表情の若者が、だるそーに横たわっている。
彼らの間には、えぴ。
1匹の、えび。
体長2m10cmの、巨大なえび。
安ホテルと男たちという「日常」のなかに、あったりまえの顔して巨大えびがいる! てゆーか、テレビ見てる!
それが、おかしい。
スクリーンの中ではそれがふつうで、なんの疑問もツッコミもなく流れていくんだけど、見ているこっちはそれだけで爆笑。
視覚のおもしろさ。
文章だといろいろ解説しなきゃいけないけど、映像だと、なんの解説もなく、観客を突き放したまま妙ちくりんな世界がすすんでいく。
それが、おかしい。
あー、映像っていいなあ。このおかしさは、文章では表現できないもんなあ。
この『えびボクサー』には、ほんとに巨大えびが出てくるんだよね。
それがもう、怪獣映画のノリ。今どき、実にうそくさいロボット以前のような人形を使って撮影している。その巨大えびのうさんくささが、余計に画面をおかしくしているのね。
巨大えびという、変な小道具を使っているが、プロットとしては平凡。5万回は見たような話。
人生終わってる、あきらめてひねくれている中年男が、「もう一度、夢を見たいんだ」と一念発起。夢のために滑稽な努力をし、そうすることで人間として成長し、新たな生き方を見つけていく。
巨大えびというシュールなネタと構図を使いながらも、それを取り巻き右往左往する人間たちは、とことん平凡で常識的。えびのうそっぽさと、人間たちのリアルさが、このよくあるプロットを、よくあるからこそ魅力的なものにしている。
よくあるってのは、5万回見たってのは、それがそれだけ支持を受けているってこと。みんなが大好きで、みんなが「見たい!」と思う物語だってこと。
はじめはたしかに、金儲けだとか有名になりたいだとか、そーゆー野心のためにがんばっていたオヤジたち。
しかし、夢中になって努力しているうちに、なにかチガウものに、到達する。
プロモーションを行う会場として、廃倉庫を手作りでリメイクするビルとその仲間。
そりゃ金は欲しいよ。成功したいよ。だけど。
いちばん欲しかったモノは、今この瞬間じゃないのか?
なにもかも捨てて、夢のために仲間たちとひとつになって、ひとつのものを創り上げる。
夢中な自分自身。
負け犬な自分やうまくいかない世の中を嘆き、すねて田舎の隅で愚痴だけをこぼしていた、あのころ。
本当に欲しかったのは。
夢中な自分自身。
自分を、好きになりたかった。
いやあ、5万回は見たプロット。
だからこそ、こんなにきらきらしている。
それにしても、あの作り物丸出しのえびはいいキャラだなあ。
その破壊力は鉄球付きのクレーン並み。壁なんかぶち破るし、殴られた人間は宙を飛ぶ。
つくりものめいているぶん、ちょっと動くだけでものすごーく、おかしい。動くわけない人形が動くあぶなっかしさがある(笑)。
走る姿なんてもお。
ついにテレビ局が動き、えぴボクサーVS人間の試合がオンエアされたとき……あのえびの動きってば!!
コロシアムを走るえびに、爆笑!!
走ってるよ、走ってるよえび!!
つーか、走れるんだ?!
うひゃひゃひゃひゃ。
わたしとWHITEちゃんは、大ウケ。
ふたりして腹を抱えて笑った。
そして、感動のクライマックスへ。
欲しかったモノは、金や成功じゃないんだよね。
それは、あくまでも副産物。
自分自身に、胸を張りたかったんだよ。
一瞬でもいいからさ。
いやあ、数年ぶりに洋画のパンフレット買っちゃったぁ。
赤いグローブをはめた赤いえぴの、型抜きになったパンフレット。見ているだけでかわいい。かわい……。
「げっ」
買ったあとで、裏を見ておどろく。
表紙はその、かわいいえび。たしかに、えび。
裏表紙は……その、裏側だった。
えびの、裏側。
つまり、腹と足。
うぎゃぎゃぎゃぎゃ。
「気色悪い〜〜っ」
「裏までリアルにしなくていいのにー!!」
ちなみに、わたしもWHITEちゃんも、えびがキライです(食べられません)。
姿がかわいいだけで、まったく使えねえパンフだしな。中は一色刷でわずか6ページ、キャストの顔写真すらない。
肝心のテキストは、HPと一言…
それはたしか、『呪怨2』を見に行ったときでした。その映画館のロビーには、小さな水槽が置いてあり、「えびボクサー」と手書きポップが添えてあった。中には、ザリガニ?らしき甲殻類が隅っこでうずくまっている。わたしたちが見た『呪怨2』は最終上映。そのあとに控えているのはレイトショーのみ。レイトショーは『えびボクサー』。
『えびボクサー』って、なんだろう? ポスターは1匹の赤いえびのアップ。赤いボクシンググローブつき。“もう海には帰れない!”
そのよくわからない映画のために、列ができている。今どきのおしゃれな若者たちが、赤いグローブをつけた赤いえびの写真の型抜きになったパンフレットを持って、たのしそうに並んでいる。
内容がぜんぜん想像できない。どーゆー映画なんだ? 『えびボクサー』って。
でもまあ、こんな小さな映画館の、しかもレイトショー限定だし。きっとただのB級映画よね。
わたしとWHITEちゃんは、なまぬるくスルーした。
しかし。
日々は過ぎ、季節は秋になった。
「ねえ、『えびボクサー』って、どうよ?」
WHITEちゃんが、ふたたび言う。
「まだレイトショーやってんだけど」
は? まだ、やってる? って、なにそれ。『呪怨2』のときにやってた映画だよね? あの映画館のレイトショーなんて、通常2週間、下手したら1週間で終わるよねえ?
「かれこれ3ヶ月もレイトショーやってんのよ。それってどうよ?」
さ、3ヶ月? それって、めちゃくちゃ大ヒットじゃん。てことは、おもしろいの?
「さあ……なにしろ、周りに見たって人がひとりもいないからねえ。でも、どうなんだろ、『えびボクサー』」
『えびボクサー』って、どうなのよ?
たしかに、一度見たら忘れられないポスターだし、タイトルだけど。
あの映画館で、3ヶ月のロングラン。
そんなにおもしろいなら、見るしかないよなあ。
ということで。
WHITEちゃんとふたりで行って来ました、レイトショー。
……どんな話だと思う?
『えびボクサー』だよ?
答え。
タイトルまんま。
えびがボクシングをする話。
監督・脚本マーク・ロック、出演ケヴィン・マクナリー、ペリー・フィッツパトリック、ルイーズ・マーデンボロー。
若いころはそこそこ活躍したボクサーだったけど、今は人生終わってるデブ中年男ビル@ケヴィン・マクナリーは、何でも屋のアミッド@マドハヴ・シャルマから儲け話を持ちかけられる。それはなんと、「体長2m10cm」の巨大えびに人間相手にボクシングをさせる、というものだった。
全財産をつぎこんで、その巨大えびを買ったビルは、後輩のアマチュア・ボクサー、スティーブ@ペリー・フィッツパトリックと、スティーブの恋人シャズ@ルイーズ・マーデンボローの3人で、いざロンドンへ!!
テレビ局に企画を売り込むのだけど、相手にされない。色仕掛けに奇襲、なんでもござれ。ついにあるプロデューサーに認められ……。
なんというか。
映画って、すごいなあ。
視覚のおもしろさっていうのは、理屈じゃないんだよね。
安ホテルのベッドに、イケてない中年男と、もっさりした表情の若者が、だるそーに横たわっている。
彼らの間には、えぴ。
1匹の、えび。
体長2m10cmの、巨大なえび。
安ホテルと男たちという「日常」のなかに、あったりまえの顔して巨大えびがいる! てゆーか、テレビ見てる!
それが、おかしい。
スクリーンの中ではそれがふつうで、なんの疑問もツッコミもなく流れていくんだけど、見ているこっちはそれだけで爆笑。
視覚のおもしろさ。
文章だといろいろ解説しなきゃいけないけど、映像だと、なんの解説もなく、観客を突き放したまま妙ちくりんな世界がすすんでいく。
それが、おかしい。
あー、映像っていいなあ。このおかしさは、文章では表現できないもんなあ。
この『えびボクサー』には、ほんとに巨大えびが出てくるんだよね。
それがもう、怪獣映画のノリ。今どき、実にうそくさいロボット以前のような人形を使って撮影している。その巨大えびのうさんくささが、余計に画面をおかしくしているのね。
巨大えびという、変な小道具を使っているが、プロットとしては平凡。5万回は見たような話。
人生終わってる、あきらめてひねくれている中年男が、「もう一度、夢を見たいんだ」と一念発起。夢のために滑稽な努力をし、そうすることで人間として成長し、新たな生き方を見つけていく。
巨大えびというシュールなネタと構図を使いながらも、それを取り巻き右往左往する人間たちは、とことん平凡で常識的。えびのうそっぽさと、人間たちのリアルさが、このよくあるプロットを、よくあるからこそ魅力的なものにしている。
よくあるってのは、5万回見たってのは、それがそれだけ支持を受けているってこと。みんなが大好きで、みんなが「見たい!」と思う物語だってこと。
はじめはたしかに、金儲けだとか有名になりたいだとか、そーゆー野心のためにがんばっていたオヤジたち。
しかし、夢中になって努力しているうちに、なにかチガウものに、到達する。
プロモーションを行う会場として、廃倉庫を手作りでリメイクするビルとその仲間。
そりゃ金は欲しいよ。成功したいよ。だけど。
いちばん欲しかったモノは、今この瞬間じゃないのか?
なにもかも捨てて、夢のために仲間たちとひとつになって、ひとつのものを創り上げる。
夢中な自分自身。
負け犬な自分やうまくいかない世の中を嘆き、すねて田舎の隅で愚痴だけをこぼしていた、あのころ。
本当に欲しかったのは。
夢中な自分自身。
自分を、好きになりたかった。
いやあ、5万回は見たプロット。
だからこそ、こんなにきらきらしている。
それにしても、あの作り物丸出しのえびはいいキャラだなあ。
その破壊力は鉄球付きのクレーン並み。壁なんかぶち破るし、殴られた人間は宙を飛ぶ。
つくりものめいているぶん、ちょっと動くだけでものすごーく、おかしい。動くわけない人形が動くあぶなっかしさがある(笑)。
走る姿なんてもお。
ついにテレビ局が動き、えぴボクサーVS人間の試合がオンエアされたとき……あのえびの動きってば!!
コロシアムを走るえびに、爆笑!!
走ってるよ、走ってるよえび!!
つーか、走れるんだ?!
うひゃひゃひゃひゃ。
わたしとWHITEちゃんは、大ウケ。
ふたりして腹を抱えて笑った。
そして、感動のクライマックスへ。
欲しかったモノは、金や成功じゃないんだよね。
それは、あくまでも副産物。
自分自身に、胸を張りたかったんだよ。
一瞬でもいいからさ。
いやあ、数年ぶりに洋画のパンフレット買っちゃったぁ。
赤いグローブをはめた赤いえぴの、型抜きになったパンフレット。見ているだけでかわいい。かわい……。
「げっ」
買ったあとで、裏を見ておどろく。
表紙はその、かわいいえび。たしかに、えび。
裏表紙は……その、裏側だった。
えびの、裏側。
つまり、腹と足。
うぎゃぎゃぎゃぎゃ。
「気色悪い〜〜っ」
「裏までリアルにしなくていいのにー!!」
ちなみに、わたしもWHITEちゃんも、えびがキライです(食べられません)。
姿がかわいいだけで、まったく使えねえパンフだしな。中は一色刷でわずか6ページ、キャストの顔写真すらない。
肝心のテキストは、HPと一言…
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