血相を変えて、母がわたしの部屋にやってきた。

「虫に刺されたの! アンタ、なにか薬持ってたわよね?!」

 虫って、なんの虫?

「わからない、朝起きたらこんなことになってたの!」

 母の首筋やら腕の内側は赤い斑点でいっぱい。
 それ、虫さされっていうより、じんましんかなんかじゃない?

「近所の皮膚科ってどこよ? アンタ、インターネットで探してよ!!」

 ママはプチ・パニック中。
 聞けば、父も同じ症状らしい。
 それって、なにか食べ物にあたったんじゃないの? 同じ家で暮らしている夫婦がそろって同じ症状ってことは。

 とりあえず、皮膚科を探して、そこへ父を送り出した。
 症状が同じなら、ふたりそろって行く必要はない。なんせ父は障害者手帳のおかげで医療費がタダなのだ。まずは父が行って、タダで診察してもらうよろし。

 父を待つ間、なんとなく母の話し相手をつとめる。
 笑えたのは、母が父の友人から借りた本。
 お手製のブックカバーがかかっていたんだが、そのカバーは、「父が出した手紙」の封筒だった。
 表紙を見るためにカバーをはずしたら、そこには父の名前が。
 エコロジーだわ、使用済み封筒の裏を使ってブックカバーにするなんて。ステッカーを貼って、おしゃれにリメイクしてあったし。
 しかしまさか、手紙の差出人の奥さんに、本を貸してしまうことになるとは、思ってなかったんだろうなあ。

 そうこうしているうちに、父が帰ってきた。

 病院に行くなり、待合室で知人にばったり会ったらしい。
 そんなところで会うとは思わない相手だから、
「どーしたんですか?」
 という話になる。

「いやあ、なにやら湿疹ができましてね」
「わたしもですよ、首の後ろとか腕とかに湿疹ができてしまって……」
「え、それ、同じですよ、ほら」
「ああっ、同じだ」

 オヤジふたり、カラダを見せ合って声を上げるの図。

「わたしは今、診察を受けて出てきたところなんです。緑野さん、ソレ、わたしと同じ、山茶花のせいですよ!!」

 山茶花? さざんか。「さざんか さざんか 咲いた道 たき火だ たき火だ 落ち葉たき」の、あの山茶花。

「ええっ、山茶花? ウチにもあります、山茶花!! 庭に2本もあります!」

 父、驚愕。庭の山茶花のせいで、湿疹が?

「正確には、山茶花にわいた毛虫のせいです」
「ああっ、そーいえば毛虫がわいたって妻が言ってましたっ」

 でも、毛虫がどーやって人間に湿疹を?

「毛虫の出す毒が、風で洗濯物についたりするんですよ。それで湿疹が出るんです。山茶花のそばに洗濯物を干してないですか」
「干してます、山茶花のそばで!」

 言いながら父、思い当たる。

「ああっ、そーいえば、数日前にテーブルに毛虫がいて、大騒ぎになりました。家の中にどーして毛虫がいるのか不思議だったけど……そうか、洗濯物についてきたんだ!」

 お医者さんに診察してもらう前に、原因発覚。
 そのあと、実際に診察してもらったけれど、答えは同じだったらしい。

 山茶花に異常発生した毛虫のせい。
 アレルギーですな。

 毛虫自体は、数日前に母が大虐殺をし、今では一匹も残っていないらしいが、当時の洗濯物が今ごろ肌に害を及ぼした模様。

 今年は特に、毛虫が異常発生してるんだって、あちこちで。
 そうなの?
「自分ちの庭ぐらい、ちゃんと眺めなさいよ。家の前の花壇、パンジーを植え直したのよ、ちゃんと見た?」
 ママは言うけど、知らねーよ、そんなこと。

 わたしが季節を感じるのは、わたしの猫が膝の上やベッドにあがってくるよーになったことぐらいさ(夏の間は寄りつかない)。

 

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