「萌えがない」
 と、オレンジは嘆く。

 東京のオレンジの部屋で、わたしたちがくっちゃべっていたときのことだ。
 オレンジは仕事中、わたしにはずっと背中を向けている。わたしはお菓子をつまんだり、寝転がったりしながら勝手にくつろいでいる。
 仕事中ではあるが、お喋りはできる。まだオレンジが大阪にいたときも、わたしはよく喋りに行っていた。
 わたしはのーなしなので、マンガの仕事は手伝えない。仕事をする彼女の後ろで勝手に喋るのみ。
 オレンジの言葉を信じるならば、そうやって部屋に誰かがいる方が仕事がはかどるのだそうだ。ひとりだと、仕事以外のことをしてしまったりするから。
 見張りみたいなもん? まあ、彼女がわたしに気を遣わせないために、そう言っていない保証はないが。

 とにかく、そーやってわたしたちはえんえん喋っていた。

「萌えがないよー。次のジャンルが決まらないよー」
 と、オレンジが嘆くので、わたしはいろいろと例を挙げてみる。

「ねえねえ、『いでじゅう』は?」
「『いでじゅう』?! どーやってヤるのよ、そんなもん!」
「だから東×部長でー。ほら、ヲトメが大好きなパターンじゃない、受のことを大好きで強引な美形の攻と、かわいい受の、えっちアリのラヴラヴがデフォルトで描けるぞ」
「無理だーっ、『いでじゅう』は無理だー。つーか、原作からすでにアレなものをどーしろと」
「えー、だって部長はえっちの最中の記憶がないんだからさあ。わたしならせつない系のラブストーリー書けると思うけどなあ」
「アタシの絵で、どうしろと……」
「あっ、それなら『勝手に改蔵』は?」
「ますますできるかいっ、不可能じゃ! つーか、どんなカップリングがあるっていうのよ」
「んー、やっぱ砂丹×改蔵? 作者も狙っているよーだし? ほら今、砂丹くん、山田さんとふたりで地球を守って戦ってるし」
「コミックス読者にわからん話をするな! オレの読んでる時点では、そんな話出てない!」
「そーいや大昔に買った『勝手に改蔵』の同人誌は、改蔵×地丹だったなあ」
「えっ、どーやんのソレ。可能なの??」
「せつない系のロマンスだったよ、バリシリアスの」
「改蔵と地丹で何故?!」
「改蔵が地丹に片思いしてるの。オレにないものを持つオマエ……みたいな感じで」
「改蔵と地丹で……。人間の想像力って……」
「それならいっそ、『クロマティ高校』は?」
「『クロ高』かよっ?! 誰と誰でっ?!」
「いや、とくに思いつかないけど……でもアレ、男しか出てこないし。『テニプリ』以上に、カップリングし放題じゃん?」
「確かに野郎しか出てこないけど。やほひになり得るのか?」
「誰かが受かどうかってことで、レギュラーメンバーたちが、会議を開いて相談すると思うわ!」
「そんでもって、名前忘れたけど、あのものすごーく影の薄い、いつもいちばんマトモなこと言ってる彼は、やっばりマトモなことを言うけど、影が薄いから無視されるのね?」
「そうよ。あーでもないこーでもないと真面目に相談したあげく、話が脱線して戻ってこなくなるのよ。そして翌週に『先週のつづきだが……』ってまだ、会議PART.2をやるのよ」
「それでも建設的な話はまったくできず、結局受も攻も決まらないまま……」
「次週では別の話になってるわね……アレ?」
「やほひになってねーよ」
「マンガは無理かなあ。アニメとかは? わたし今、『カレイドスター』のユーリ様の乳首に萌えてるけど!」
「『カレイドスター』は1話を見て、見捨てたよ。で、なによその乳首って」
「いや、ユーリってさあ、カレイドステージのトップスターなわけよ。金髪碧眼の王子様キャラ。ヒロインが落ち込んだときにさりげなくはげましちゃったりする、こそばゆいキャラ。
 ただのツラだけキャラかと思ってたら、突然復讐に燃える悪のプリンスに変身して、今はヒロインたちの敵になってるの。んで、王子様だったときは一切脱がなかったのに、悪役になってからは、露出度高し。裸の胸には、わざわざ乳首が、色をかえて描いてあるの。男の乳首を、いちいち色かえて描くか、ふつー?!」
「……変なアニメ」
「ユーリ様が出てくるたびに笑えるよ。スタッフはたぶん、ユーリのことを“セクスィ〜”だと思って描いてるんだろうな、ってとこが……いや、それはともかく『カレイドスター』って早い話が『ガラスの仮面』だから、ヒロイン・マヤとトップスター亜弓さんとのレズ萌えがたのしいぞ」
「いらん。そんなレズはいらん。それくらいなら、『すいか』を描くわっ。馬場@小泉今日子×早川@小林聡美で!」
「早川受?! アンタのことだから、馬場ちゃん受かと思ってた。片思いする受が好きなはずでしょ?」
「受のことを愛している攻の話よ。女の子の好きなパターンじゃない!」
「馬場×早川を、女の子はよろこぶだろーか……ってゆーかそもそも、『すいか』なんて地味なドラマ、誰が見ているというんだ」
「でももし『すいか』本出して、表紙に『注・やおいです』って書いたらみんな、誤解するだろうねえ」
「やほひ、っていうとふつー、男×男を想像するからね」
「女×女も、アタシ的にはやほひなんだけど。ハートが同じだから」
「しかし、『すいか』で男×男っつったら……」
「男キャラいないもんな、『すいか』。間々田さんと……ほら、北海道に行った男と……あとバーテン? ぐらいしか」
「どうあがいても、間々田さん絡みになるよ」
「間々田さんのやほひ! み、見たくねーっ」
「見たくねーっ」

 萌えがなくては、オタクは生きていけません。
 息をするように、萌えは必要なのです。

 わたし?
 わたしはホラ、ヅカがあるから。オレンジほど萌えに飢えてません。

 飢えてるのは、ヅカホモパロよ。
 いわゆる妄想系じゃなくて、作品パロ。
 『王家…』のパロとか、誰か書いてくれよお。

 

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