愛は重い。

2003年2月10日
 今だ。
 今なら、彼は眠っている。

 抜き足、差し足。
 音をたてないように、こっそりと支度をする。

 これから家族で外食に行くの。
 彼が眠っているうちに……。

 家の前で待っている母に、
「やったわ、アイツは熟睡中だから、気づいてない」
 と報告。

 彼は寂しがり屋。干渉されるのはキライだけど、ひとりぼっちはさらに大嫌い。
 家にひとりで残されるのなんか、耐えられない。
 だからわたしが出掛けるときは必ず、
「どこへ行くんだ、オレを置いて行くな、ひとりにするな、オレもつれて行け!」
 と、ぎゃんぎゃんさわぐ。
 仕方ないのでいつも、親の家に預けに行く。

 でも今回は、家族総出でお食事だ。親の家も空っぽになる。
 彼を預けることができない。

 だから抜き足忍び足。
 彼が眠っているうちに……。

 玄関でコートを着ているときに。
 2階に、気配を感じた。

 まさかっ。

 振り返れば階段の上に、彼の姿が。

「がぁー……ん!!」

 彼の顔には、驚愕がわかりやすく文字になって貼り付いている。ええ、マンガなみにわかりやすい。ベタフラ背景に白目になった姫川亜弓ばりだよ。

 オレが寝ている間に、ナイショで出掛けようとしている……!!

 裏切られた!!

 とゆー、驚愕と傷心の顔なんだな。

 しばし「がぁー……ん!!」と硬直していた彼は、はっと我に返り、大慌てで階下に降りてきた。

 ぎゃんぎゃん、にゃーにゃー。
 足元で鳴きわめく。

 ああっ、うるさいっ。

 エサをやって、水をやって、彼がよそ見している隙に家を出た。

 つれて行けないのよ、親の家にも預けられないの。帰ってくるまでたかだか数時間、おとなしくしてろっつーの。

 たかが猫。
 たかが猫一匹ですとも!

 でも、小さな生き物に足元にすがりつかれて、
「どこへ行くんだ、オレを置いて行くな、ひとりにするな、オレもつれて行け!」
 と鳴かれたら、いい気はしませんて。

「あんたがもし将来、腰を悪くしたら、それは猫のせいね」
 と、母は言う。
「1日何時間も、猫を膝に乗せてるせいね」
 と。

 わたしは在宅ワーカー。仕事は自宅でパソコンに向かうこと。
 そして働いている間、猫はずーーーっと膝の上にいる。重い。

「そして、あんたが肩をおかしくしたら、それは猫のせいね」
 と、母は重ねて言う。
「毎晩、猫に肩枕をしてやってるせいね」
 と。

 夜は猫と一緒に寝ているのだけど、1日何時間かは絶対、わたしの脇の下から腕の上に乗り、肩を枕にして寝るのよ。重い。

 愛って……。

 

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