お伊勢参り。

2003年1月2日 家族
「おかげ横町か……。あそこには苦い思い出があるからな……」

 弟は苦く笑ってそう言う。
 伊勢神宮の門前町、おかげ横町。江戸時代の町並みを再現した、愉快な場所だ。
 緑野家の初詣第2弾、お伊勢参りです。
 寒いのなんのって。天気は良くて気温も低くはない。ただし、風が強すぎて、体感温度は極寒。震え上がる。
 そして参拝客が多すぎて道路は渋滞、タクシー料金は通常の倍以上かかったよ。

「おかげ横町に入るなり、観光客にカメラ向けられたんだ。こっちも客なのに」

 弟は語る。学生時代の「苦い思い出」とやらを。

「弟よ。念のために聞くが、君はそのときどんな格好をしていたんだ?」
「江戸時代の『おかげ参り』の再現だから、はっぴを着て笠をかぶって柄杓を持ってた」
「……そら写真撮られるわ」

「でもぼくは、わらじ履きでもなかったし、歌い踊りもしてなかった!!」
「……してる奴もいたのか?」
「いた。ていうか、『おかげ参り』ってそういうもんだし」

 弟は某大学の史学科で、江戸文化を学んでいたはずだ。
 そして彼の所属するゼミでは毎年、おかげ参りを再現する授業がある。
 つまり、奈良県から三重県の伊勢神宮まで「徒歩」で旅をするのだ。当時の街道を通って。

 「徒歩」だ。

「ちなみに、どれくらいで着くの?」
「ん、4日ぐらい」

 4日。
 4日間、歩くわけだ。マジで。

「有名なゼミだぞ。マスコミの取材もよく来るしな。卒業生も参加してるし、毎年ものすごい人数で練り歩くんだ」
「……笠かぶってはっぴ着て?」
「当時の風俗を再現するわけだから。……でもぼくは、ふつーの服にはっぴとか着る程度だけど」
「ほとんどコスプレの集団が、4日かけて奈良から伊勢まで旅するのね?」
「仕方ないだろ。参加しないと単位もらえないんだから。……最初のうちは、恥ずかしいぞ。まだ街中だからな。しかし、伊勢まで来るころにはもー、周囲の視線にも慣れてるから、平気になってる」

 ……弟よ。

 江戸の町並みを再現したみやげもの街に、江戸の風俗を再現した大学生の集団が現れたわけだ。4日もコスプレしたまま往来を練り歩いていた集団のテンションは想像がつく。

「そりゃ、観光客にカメラ向けられるわ……」

「いいかげん視線には慣れてたけど、囲まれて写真撮られたら、びびるって」

 ……やれやれ。

 おかげ横町はたのしい場所なんだが、寒すぎるのと混みすぎているので、長居はできず。残念。

 前日ささやかな「ツキ」に恵まれ、ほくほくしあわせだったわたし。
 本日はなにかしら不運。ささやかな不運が続く。

 そのうえ。
 お財布に付けていた願掛け福猫が割れてしまいました。……がーん。
 さらに、ダヤンの招福ストラップも、欠けてしまいました。がーん。

 縁起物が次々と壊れるって、なにこれ。
 も、ものすごく不吉なのでわっ?!

「大大吉の効力は、やはり1日限りだったか……」
 と、弟。
 そ、そんなことないわよっ。あれは1年有効なはずよ。
 たぶん……きっと……願わくば……。

 

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