弟がわたしの部屋にやってきた。

「本体ごと買った」
 と、手にしているのは……。

「キューブ?! 嘘っ、買ったの?!」
 グレートだ、弟!!

 ニンテンドウの、ゲームキューブ。
 子ども対象のゲーム機。大人が楽しめるソフトはほとんどない。
 この少子化の時代、売れ行きがイマイチなんだろう。大人……いわゆる20代30代の「自分の楽しみのためにお金を使える」人たちを取り込めるソフトを出しはじめた。
 このゲームをやりたいがゆえに、本体を買う。本体への魅力ではなく、あくまでもそのゲームタイトル単体の魅力。いわゆるキラーソフトの誘致。

 それが、『バイオハザード』シリーズ。

 『バイオ』をやりたかったら、ゲームキューブ本体を買わなければならない。たとえ、他にただの1本も興味のあるタイトルがなくても。

 キューブでさえなかったら、と、弟とはいつも話していた。
 アクションとレースとスポーツしかないゲーム機なんて、まったく魅力がない。アクションゲームだって、キャラとかのセンスがよければまだしも、マリオじゃなー。あのヒゲオヤジ、世間的にはイケてるのか? 中年オヤジだぞ?
 『バイオ』ファンであるわたしたちは、嘆いていたさ。キューブの客寄せパンダになってしまったときに。
 さしづめ、贔屓のジェンヌが「できれば見たくない」と思っていた組に組替えになった気分さ。見たいのは、あの人ただひとり。組にもトップスターにも興味はない。端っこにいるあの人のためだけに、見たくもない組と演目にチケット代を払い続けるのか?! と、ゆーよーな嘆き。
 キューブは欲しくない、でも、『バイオ』はやりたい……。

 それでも買ってきたのか、弟よ!!
 『バイオ』だけのために、2万円も出してキューブ本体買ったのか。グレート!

 そうまでしてやりたかったのだ、シリーズ最新作『バイオハザード0』。

 そしてわたしたち姉弟は、基本的にゲームは共有する。同時にプレイする方が、そのゲームの情報交換ができたりして、たのしいからだ。
 別々の家に住んでいるくせに、共有(笑)。
 いつもなら1本のソフトが2軒の家を行き来するのだが、今回は本体ごとだ。
 弟はわざわざわたしの部屋まで、本体ごと持ってきてくれた。わーい。

 ありがたく受け取ったはいいが。

 ど、どこに置こう??

 テレビの前にあるワゴンには、1番下の段にセガサターン、真ん中の段にプレステ2、いちばん上の段はいちばんひどい、ドリキャスの上にニンテンドウ64が載っている。親亀の上に子亀状態。ドリキャスは平らじゃないから、64はぐらぐらしてる。
 こ、これ以上どこへ置けと?!

「いやだねえ、マニアの部屋は……」
 弟は溜息をつく。

 し、失礼ねっ。わたしべつに、ゲームマニアじゃないわよっ。
 まだ他にプレステとスーファミとメガドラとワンダースワンがあるけどさっ。あ、たしかゲームギアも持ってるけどさっ。
 マニアじゃないもん。女の子にその言い方は失礼だわ。

 とりあえず、スキャナがわりと平らなので、その上に置くことにした。ケーブルが長いから、接続はぜんぜん平気。
 さて、AVケーブルは……ああ、たしかまだAVセレクタに空きがあったなー。
 AVセレクタにケーブルをつなぐわたしを見て、

「いやだねえ、マニアの部屋は……」
 弟は再度溜息をつく。

 し、失礼ねっ。わたしべつに、ゲームマニアじゃないわよっ。
「ふつーの人は、セレクタなんか持ってないって」
「うるさいわねっ。便利なのよ、ボタンひとつでゲーム機をチェンジできて」
 プレステ2と64がつないであるの、今。ボタンひとつでどっちのゲームもプレイできる。
 もうひとつ端子に空きがあったから、そこにキューブをつないで、あら完璧。気分次第で3つのゲーム機をどれでもプレイできるわ。

 てなことのあとで、よーやくプレイ開始。
 弟もわたしのプレイっぷりを眺めるつもりだろう。猫を抱いたまま動かない。

 最初にわたしは弟に聞いた。
「ね、こわい?」
 弟は意味深に笑った。
「こわいというよりは、笑える」

 たしかに。
 笑えるわ……。

 というのも、『バイオ』は『バイオ』だからだ。
 わたしたちは1のころから、このゲームを愛してプレイしてきている。
 つまり、「よく知っている」のだ。
 そして、「よく知っている」ものの新作なのだ。
 ……笑えるよ、そりゃ。

「まず絶対列車なんだよなー」
「お約束お約束。列車が出なきゃ『バイオ』じゃないよなー」
「レベッカって新米っていう設定だったのにな。すでに忘れられてるよな」
「新米の18才の小娘をひとりしたらいかんよなー。ふつー、二人一組が基本でしょ、警察は」
「この人たち、警察なんよなあ。忘れがちだけど」
「1では新米の小娘だから生き残った、ての納得できたのにな。危険な場所には他のメンバーが行かせなかったんだな、って思えるから。なのに、0でこんなバリバリ活躍してどーするよ」
「まあ、ふつーの女子大生がショットガンぶっ放して無敵だったりするわけだからねえ。新米警官が無敵でもしょうがないか」
「ゾンビはまず、ムービーだよねえ」
「そうそう。敵はまず、ムービーで印象づけてから戦闘になる。どっかのゲームみたいになんの説明もなく鳥が襲ってきたりしない」

 お約束がいっぱい、知っている単語やアイテムがいっぱい。
 旧友に会った感じ。
 なつかしくて新しい、再会のよろこび。だから笑える。

 しかし。
 わたしはへっぽこゲーマー。

「おい。なんで死ぬんだ、ゾンビごときで」

 だってぇぇええ。
 ハンドガン構えたまま、後退しようとしたら変な動きしたよお。

「構えたら後退はできないって。できたのは『静岡』」

 あっ、そうだっけ。

「ちゃんと狙って撃てって。どこ向いてる。『静岡』じゃないぞ」

 自動照準じゃなかったっけ。上とか下とか、自分で操作するのよね。……そうか、静岡はそれができなくてうざかったっけ。
 ところで、カメラ位置変わらないから、敵が見えないよ。なんとかならない?

「『バイオ』はカメラ位置固定。『静岡』じゃないんだから」

 ええーっ、それ不便じゃん。

「だからこわいんだろ、音だけで敵を察知するしかなくて……てゆーか、なにやってる、しがみつかれたら、ふりほどけ。ボタン連打」

 だって、サルに押し倒されたらなにしたって無駄でしょ? モグラにしがみつかれたら、時間がくるまでそのままでしょ?

「それは『静岡』だっ」

 うわーん、わたし、『静岡』と『バイオ』が混ざってるよーっ。

「『静岡』なんてショボいゲーム、何周もクリアするから妙な癖つけやがって……」
 弟はぶつぶつ。
 わ、悪かったわね。あんたが貸してくれたゲームじゃんよ、『静岡』って。職場の人からの又貸しで。その貸してくれた本人さえ、その不親切なシステムに辟易してクリアできなかったとゆーのに、わたしは3回もクリアしたわ。
 そりゃ手が覚えちゃってるよ、操作方法を。

 わたしは『バイオ』ファンよ、『静岡』なんかべつに好きじゃなーいっ。
 なのになのに、カラダは『静岡』を忘れていないのか……っ?!

 弟はわたしのへっぽこぶりに溜息をついて出て行った。
 いいのよ、わたしはあんたの2倍も3倍も時間をかけてプレイするんだから。あんたの100倍くらい死ぬんだから(比喩ではないあたりがかなしい……)。
 努力と執念でクリアするの。

 さて、最近プレイしていた64の『オウガバトル』はちょっとお休みだ。
 これからは『バイオハザード0』!!


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