熊ですかっ?!

2002年11月13日 その他
 わたしの家の隣には、ひとり暮らしのおじさんが住んでいる。
 おじさん、とゆーか、おじいさん、かな。それくらいの年齢の人。

 うちは角なので、道に面した部分が大きい。でもお隣さんには少ない。
 そしてお隣さんは、花が好き。植物を育てたいというので、うちの家の前を貸している。

 つまり、うちの玄関前から角(角の家って、そこだけ壁が削られたよーになってるよね?)のあたりまで、お隣さんが育てているお花がずらりと並んでいるの。植木鉢、プランターなどがずらり。

 わたしはひとり暮らしの独身の女の子。もういいトシだが、独身だから「女の子」だ。
 女の子がひとりで暮らしている家の前が、花であふれている、てのは、良くないか? 良いだろう?
 わたしは植物を育てるのは苦手だが、眺めるのは好きだ。そして、お隣のおじさんは育てるのが好き。
 両者の利害は一致した。
 だもんで、わたしの家の前は花でいっぱい。

 最初のうちは、かわいいもんだった。
 植木鉢がいくつか並んでいる程度。
 12月になればポインセチアなんかが置かれ、とっても女の子らしい、かわいい玄関になった。

 時が経つにつれ、花の数は増えていく。
 どこまでも、増えていく。

 ……あの、おじさん。どこまで増やすんですか……? もう置き場所、ほとんどないですが……つーか、そこは長年自転車を置いていたスペースなんだけど……わ、わかりました、自転車の方を移動させます。

 お隣のおじさんは、花だけではなくどーやら、かわいいものも好きみたいだ。
 植木鉢の間や中に、陶器の動物たちが置かれている。
 小首を傾げたリスさんとか、かわいいクマさんとか、七人のこびととかな。
 ……これもだんだん、増えている。
 そーいやおじさん、一人暮らしなのに、彼の家の表札は季節のお花があしらってあるリースだ。玄関だけ見たら、女の子の家だと思われるぞ?

 なんか、わたしの性格とはかけ離れた玄関になってきている気がする……と、小首を傾げたリスさんと目が合うたびに思う。

 そして、お花たちの間に、ある日奇妙なものが置かれていた。

 全長150センチくらいでしょうか。
 巨大な、細長い赤いガラスの花瓶。

 さすがにこれには、おどろいた。

「あの……なんなんですか、コレ……?」

 目を点にしたまま、お花にお水を遣っているおじさんに聞きました。

「ああ、あるお店でもういらないって言うんで、もらってきたんだ」
 おじさんは意気揚々と答える。

 もらってきたって……。
 どう考えても、ホテルのロビーとか、大きなお店とかでライトをあびて飾られているよーな花瓶なんですけど。
 だって高さが、こどもくらいありますぜ。

 当然大きすぎるから、花なんか活けられない。これに活けることができる人は、プロのコーディネーターだけだろう。

 道を行くいろんな人が足を止め、おじさんに話しかける。
「これ、なんですか……?」
 おじさんはうれしそうに説明する。

 そりゃ、理解できずに質問するだろーよ。
 道ばたに巨大な花瓶(しかも花は活けてない)があったら。

 かわいいものが好きな、花好きのおじさん。
 そう思っていたんだけど。
 この花瓶のあたりから、疑問が生じる。

 そして、今日。

 わたしは信じられないモノを目にする。

 お花で埋まった、わたしの家のエアコンの室外機の上に、それはあった。

 木彫りの、熊の置物(黒塗りの台付き)。

 ふつー玄関とか、応接間なんかによく置いてある、躍動的な姿をした熊の置物。
 もらうもんなんですかね、たいていの家にあるよね。こんなの趣味じゃなかったり、置きたくなんかないだろうな、って人の家にも、何故かちゃっかり置いてあるから、なにかしら日本家屋には必要不可欠な因習があるのかもしれない。
 その、熊の置物。

 それが、わたしんちの外壁に沿ったお花畑の中に。
 エアコンの室外機の上に。

 ……ガーデニングをたのしむ人たちは、たしかにお花の間に陶器の置物を置く。動物を置いたりする。
 でも。

 木彫りの熊は、置かないだろおっ?!

 おじさん。
 かわいいものとお花が好きなおじさん。
 ひょっとして。
 ひょっとしておじさん、実は飾れるものなら、なんでもいいの……??

 ……道行く人たちに、どう思われてるんだろう。
 木彫りの熊を植木鉢の間にディスプレイする、ひとり暮らしの30女の家、って。

 

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