ゴッホ展に行きたかったんだが……。

 結局、あきらめました。
 いつでも行ける、と思っていたから、行きそびれた。11月4日までだけど、もう行けない。
 だって……つい先日行ってきた人の話を聞いたのよ。平日だったのに、2時間待ち。どの絵も30人くらいが群がっているそーな。小さな絵を1枚見るために30人が場所取りをし、待ち続ける。よーやく見たら次の絵のためにまた30人が場所取りを繰り返す。
 小学校の頃の恩師の話なんだが、彼はもー、絵を見るのはあきらめて、音声ガイダンスだけを聞いて帰ってきたそーだ。

 見たかったな、ゴッホ……。
 しかも今回は、もうひとりのゴッホ、弟のテオにもスポットがあたっている。
 この兄弟の関係ってけっこー萌え……ゲフンゲフン。

 わたしとゴッホの出会いは、とある幼児向けテレビ番組でだ。

 『ママと遊ぼうピンポンパン』という番組が、その昔あった。
 小学生だったわたしは、毎朝時計代わりにその番組を見ていた。
 「ビッグマンモス」という少年だけのコーラスグループがお気に入りだった。おそろいの衣装を着た長髪(当時の流行)の10代はじめから半ばくらいのかわいい少年たちで構成されていて、オリジナルの曲も歌ったり踊ったりしていた。今思うと、ジャニーズみたいなノリのグループだったな。ジャニとちがうのは、ほんとに歌がうまかったこと(笑)。
 おたのしみはその男の子たちの歌だったんだけど、いつどこで誰が歌うかわかんなかったから、番組は最初から最後まで全部見ていた。
 そして番組の最後の方には、いつも人形劇があった。
 ブチャネコとワンタンという、ベタな名前の人形2体がベタベタなコントをするコーナーだ。
 最初のうちはただのコントだったんだけど、そのうちネタが切れてきたんだろう。1週間連載で、「偉人伝」をするようになった。
 猫と犬の人形、2体だけでいろんな役をやりながら、偉人の人生を物語るわけだ。
 特別、おもしろいものでもなかった。朝っぱらから幼児番組で「偉人伝」なんぞやらなくていいだろうに。しかも続き物。企画的に失敗している気が、するんだけど……。

 そこでわたしは、「炎の画家・ゴッホ」に出会った。

 ゴッホ役は猫のブチャネコ。声は富山敬氏。彼は通し役。
 弟テオ他、出てくる他のすべての役(もちろん女役含む)は犬のワンタン。声は富田耕生氏。
 2大声優がその実力を駆使して演じるふたり芝居。表情乏しい(なんせ猫と犬だ)人形に、命を吹き込む。

 最初、変だなと思ったんだ。
 ブチャネコが大きな肌色の「耳」をつけていたから。
 なんせブチャネコは猫だ。頭の上に三角の猫耳がついている。
 なのにわざわざ目の横に、人間のような肌色の耳をつけているんだ。
 「偉人伝」だからそりゃ、人間の話だよ。でもそれまでやったどんな話だって(エジソンとか野口英世とか、そーゆーやつだな)わざわざ人間の耳なんかつけてなかったし、猫は猫のまま、犬は犬のままで演じていたのに。
 わざわざ耳がついていて、変だった。猫の顔に人間の耳……茶トラ猫の顔に肌色の耳……キモ。

 なんのために「耳」がついていたのか……知ったのは、最終回の金曜日だ(月〜金の5回完結)。

 ブチャネコ・ゴッホは、ナイフで自分の耳(肌色の人間耳)を削ぎ落とした!!

 ちょ〜〜っと待てぇっっ。

 幼児番組なんですけどっ。
 人形劇なんですけどっ。
 朝なんですけどっ。

 引きました、わたし。
 そりゃーもー、盛大に。

 こわかったんだよ、「耳を削ぎ落とす」なんてシーンをなんの予備知識も心構えもない、さわやかな朝からビジュアルで見せつけられて。
 びっくりしたよ。
 強烈だよ。
 わたしゃまだ小学生だよ。
 ゴッホなんて人、カケラも知らないよ。興味もないよ。

 ぜんぜん知らないし記憶にとめる気もない、見終わったらそのまま忘れるだろーどーでもいい番組で……突然の残酷シーン。

 赤いライトに照らされ、ナイフを手にして立つ、片耳のブチャネコの姿が忘れられない……。富山敬氏の絶叫もね。

 「こうして彼は、『炎の画家・ゴッホ』と呼ばれるようになったのです……」とかなんとか、力強いナレーションが流れてね。

 うう、ぶるぶる。
 忘れられない幼少の記憶のひとつが、この片耳のブチャネコ。

 トラウマです、はっきりいって。

 おかげで、わたしにとっての「ゴッホ」はこの片耳のブチャネコ。
 わたしにとっての富山敬の代表作は、古代くんでもデューク・フリードでもテリィでもなく、ブチャネコ。

 「炎の画家・ゴッホ」。
 燃える深紅のライト、めらめら揺れる炎の効果、仁王立ちするブチャネコ、片耳とナイフ。

 画家としてのゴッホに出会うのは、そのずーっとずーっとあと。
 つーか、あのトラウマのネタになった人が画家だったことも、わかっていても実感としてはつながってなかったよ。ブチャネコの印象強すぎて。

 ゴッホ展に行きたかった。
 わたしのなかの、永遠の炎の人(ただし姿はブチャネコ)。

 

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