すでに恒例になっている、オレンジとの長電話。

 ほぼ90%、かかってくるのを受けるだけなので、かけてくるオレンジは万全の態勢でのぞんでいるだろうが、わたしの方はそうではない。
 午前2時、ヤマダさんとのデートで食べた夕食が中途半端な時間だったから、そろそろ夜食でも食べようかな、お茶を蒸らす間にトイレにも行って……とアタマの中で考えながらも『サイレントヒル』の2回目(すでに1回はクリアした)をプレイ中だった。

 つまり、おなかがすいていたの。トイレにも行きたかったの。
 だけどかかってきた電話を親機で受けて、そのまま5時間半。
 ……電話を切ったときには、まっすぐトイレに駆け込んだ。

 オレンジはいつも子機でかけてくるから、平気で電話中に洗い物して料理して、ごはんも食べてるんだよねー。音が全部聞こえる。
 わたしは親機で受けてるから、電話のそばから離れられない。同じ態勢で5時間半。……こ、腰が……。

 じゃ、切ればいいじゃん、電話。
 相手に待ってもらって、その間にしたいことをすればいいじゃん。

 ごもっとも。
 でも、それができない。

 オレンジと喋りたいんだもん〜〜。

 かねすきさんにまた「のろけ」だと言われるかもしれんが(笑)。
 オレンジとの電話タイムはわたしにとって貴重なので、彼女からの電話を切るなんてとんでもないのよ。

 今期のドラマでは、オレンジは『真夜中の雨』『アルジャーノンに花束を』『天才柳沢教授の生活』だけを1本のビデオテープに録り溜めており、まだ1話も見ていないそうな。
 で、他のドラマはリアルタイムに見て、「つづけて見る価値ナシ」と判断。
 期待しているドラマのみ、ビデオに撮り溜めているために、かえって1話も見れていないという。

「どうかな、この3本だけにヤマを張ってたアタシは?」
「いいんじゃない? アタリだよ、それ」
「アタリか! えらいぞオレ!」
「いや、その3本にしたのはたしかにアタリだけど、その3本がアタリな作品であるというわけでもないしなー……もしビデオ録りしてなくてもハズレにはならないくらいだ」
「そ、そうなのか……『アルジャーノン』は岡田さんだから期待してるんだけど、だめ?」
「まー、いーんじゃないー? 程度」
「その程度か……原作アリでその程度じゃ、『イグアナの娘』は超えられないね」
「いや、世間の評価は知らないよ。あれだけの超有名原作つかうわけだから、絶対文句は出るだろうし……つーか、主演がユースケである段階で、ブーイングだろ」
「ユースケはいいものを持った役者なんだけどねえ。でもこれだけのタイトルをやるなら、ユースケでは役者不足だ。かといって誰がいいってのも浮かばないけど……」
「ほんとうにうまい人に、させるべきだったよ。どんな人でもマニアからはブーイングされるだろうけど、せめて演技力に定評のある役者をつかえば、『おれはあんなのキライだけど、演技がうまいことだけは認める』と言わせることができるのに」
「テレビも世間も、ユースケの使い方まちがってるよなあ。ユースケはただのいい人より、悪役の方が映える役者なのに。ほらあの、キムタク主演のぶっこわれバカサスペンスドラマ。あれのユースケはすごかった」
「『眠れる森』ね。壊れたひどいドラマだったけど」
「ユースケだけはよかった。彼のためだけに見ていたよ。ただのいい人、ただの友だち、のふりしながら、実は……という黒い部分を計算して見せていたよね」
「途中で死ぬ役だからよかったんだよ。あのドラマ、結末は役者も知らなかったわけでしょ? ユースケは途中退場だから、ちゃんと自分の役を最後まで知って、計算した演技ができたんだろーな」
「他の役者は悲惨……。計算もなんもできねーもんな。人格はいくらでも歪められちゃうし。毎週ごとに人格変わる人ばっかの、ぶっこわれドラマ。……それとそれと、あれもよかったでしょ、高島なんとか主演の1話完結の刑事ものかなんかで……」
「高島礼子主演の『ボディガード』ね。ユースケは彼女に守ってもらうバカ男役」
「ほんとーにバカな役で、なんで自分が命を狙われるのか、まったくわらない。殺したいと思うくらい恨まれて当然、のひどいことをしていながら、まったく自覚ナシ。そして最後に自覚して改心することもなく、最初っから最後まで一貫して『おれ、なんも悪くねーのにぃ』とへらへら笑っていて、高島にぶん殴られる。……あれ、見ててこわかったよ。ほんとーにバカだから」
「毒がある演技、実はうまいんだよね、ユースケ。顔や雰囲気がいい人系なだけに、彼の表現する『毒』はリアルで痛い。……でもいつも彼は、いい人俳優。ただのいい人しか、仕事が来ない」
「ユースケの冷酷無情な悪役が見たいよーっ。いやべつに、顔はぜんぜん好みじゃないんだけどーっ」
「今回もまた、いい人系だしな」
「『アルジャーノン』はちがうではしょ? ほら、アタマよくなったあととか……」
「天使モノだよ。知的障害ゆえに、現在天使。彼が知性を得ることによって、汚れた現実を知り、傷つく。だけど愛することを忘れない……天使が汚れ傷つき、でもけなげに立ち上がる話。そして失われていく物語」
「天使……ユースケで天使……。ああでも、他にいい俳優とか、とくに思いつかないし……窪塚くんは……ちょっとちがうかなぁ?」
「窪塚!! あ、それいい。窪塚ならわたし、萌える。知的障害で周りにいじめられながらも、それに気づかずに笑っている窪塚……徐々に知性を持ちはじめる窪塚……天才になり、知らず凡人どもを見下す窪塚……も、萌えーっ」
「主人公は最低限、美形で見たいよねえ、『アルジャーノン』は。現実にはそうでないとしても、ドラマだからねえ。こーゆーいじめられ系のは、美形でない人だと、見ていてつらいからなあ」
「主人公のハルが窪塚だったら、きっとあのパン屋の従業員たちに、夜もいぢめられてるねー。おもちゃにされてるねー。そんな彼が知性を持ちはじめ、彼をおもちゃにしていた従業員たちにも動揺が……」
「ああなるほど、いいねえ……ってアンタ、さりげなく鬼畜な萌えの話してないかっ?!」
「ユースケじゃそれはないだろーからなー」
「ないない、ユースケじゃ誰も夜のいぢめはしないヤらないっ」
「ああ、窪塚ハル萌えー」

 てな、バカ話。
 ……電話の大半は、深刻な話なんだけどね。
 深刻な話とバカ話が平気でミックスしているあたり……。

 

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