水曜日なのに、はるばる宝塚まで行きました。

 お風呂に入りに。

 題して、リベンジ、ホテル『若水』!!

 そうあれは、震災直後くらいのこと。
 当時のムラには、手頃なレストランがなかった。
 プレハブの飲食店やロッテリアはあったけれど、みんな閉店が早い。3時開演を観たあと、ゆっくりごはんを食べておしゃべりができる店がなかった。
 わたしとクリスティーナさんは仕方なく、ワシントンホテルを利用していた。駅前で夜遅くまで開いているレストランはここしかなかったのさ。
 しかし、あまりにいつも同じ店では飽きる。つーかメニューも食べ尽くした。
 そしてわたしたちは、ワシントンホテルから見える、もうひとつのホテル、改築だかをしたばかりできれいな『若水』に行ってみることにした。
 『若水』なんて、いかにもダサい、昭和っぽいホテルだ。和食しかないかもしれないが、うどんくらい食べられるんじゃないかな。

 ……甘かったっす。
 高級旅館だったのね……『若水』……。

 わたしもクリスティーナさんも、そんなことまったく知らなかったからさ。
 1階ロビーでレストランのメニュー見て、回れ右したよ。
 た、高い……高すぎる……。つーか、たかだか晩メシにこんな値段出すなら、大劇場公演を観るよ。
 特別でもなんでもない、日常の晩ごはんが、S席値段(最低価格)なんてやだ……。

 それ以来、一切近寄らなかった『若水』に、行ってきました。
 風呂好き三姉妹、ワゴンねーちゃん、きんどーさん、わたしの3人で。
 大劇場勤務のワゴンさんが、聞きつけてきたんだ。『若水』のランチメニュー「仙水」3500円が、おいしいうえに温泉にも入れるからお得だって。
 なお、『若水』の温泉はお金持ちのおばさま方がたくさん利用しているので、いつもとっても混雑しているとのこと。
 だから狙うなら歌劇のない水曜日。水曜日ならすいているからゆっくりすることができる。
 それにワゴンねーちゃんの休日も、とーぜん水曜日なわけだしな。
 わたしたちは、満を持して水曜日に『若水』を攻略した!!

 ここで問題。
 じつはわたし、和食だめなんだわ。
 魚介類全部だめなの。
 和食以外で調理してあるものならまだ食べられるけど、この風呂付きランチはとーぜん和食だよー。
 和食ってさ、素材の姿も味もまんまだから、きついのな。さしみとか生だし。
 死体の肉を生で食べたり、死体の姿まんまを調理したものは食べられないっす……。和食の魚って、断末魔の苦痛にのたうつおぞましい姿そのままとか、生前の姿そのままとかで出てくるからなー。想像力豊かなわたしには、恐怖が先に立って食べられないんだわ。
 豚や牛だって、死の苦痛にのたうつ姿や、生前の姿そのままで出されたら、食べられない。
 幸い肉は、もとのカタチがわかる状態では食卓にあがらないから、和洋中問わずに食べられるんだけど。そして魚介類でも、もとのカタチがわからない和食以外の文化ならばまだ食べられる。
 どうもわたしは、「動物を食べる」ことに拒絶反応があるみたいなんだわ。なんて偽善的。
 おぼえてないけど、トラウマでもあるのかな。とくに魚。食卓にあがる種類の魚は、生きていてもこわい。
 ゴキブリと魚を見たら、わたしは悲鳴を上げる……。(わたしにとって魚は、ゴキブリと同類項)

 まー、こんなやつが、天下の『若水』様でランチをしよーなんて考えることがおこがましかったね。
 死体の姿まんまの魚は出なかったので、さしみ以外はがんばって食べたけど(連れに悪いし、もったいない)、味なんかわかんないよー。「食べた」という事実のみ。ぜえぜえ。がんばったわ、わたし!
 連れのふたりが「おいしい」と言っていたので、きっとおいしいお料理なのでしょう。

 ただし、量は少ない。
 ワゴンさんは「足りない!」と叫んでいた。

 ま、食事はいいんだ。どーでも。
 わたしたちの目的は、温泉。

 見晴らし最高です。8階なの、大浴場。
 大劇場も川も橋も山も、全部見える。
 今日はまたすばらしくいい天気。青空の美しいこと。

 でもなー。
 女風呂はつまんないね。
 目隠しが張り巡らされているから、湯船につかってしまったら、外が見えない。
 せっかくの露天風呂なのに。
 立ち上がって目隠し塀の向こうをのぞかなきゃ、眺望はたのしめないのよ。
 男風呂はきっと、こんな無粋な囲いはないよね。世界を見下ろしながら風呂につかれるんだよね。男はいいなあ。
 盗撮されて、写真を販売閲覧されたりするんでなけりゃ、わたしゃべつに多少裸見られても平気なんだけどね。
 というと、誤解があるかな。
 女風呂ってたいてい、外からは見られにくいような位置に作ってあるでしょ。200メートル向こうからなら見えるけど、とか、そんなふう。
 わたしはその、200メートル向こうからなら、見られてもかまわねー、と思うのよ。ただの肌色にしか見えないからね。顔もカラダの細かいカタチもわかりゃしねーもん。
 そりゃ世の中にはいろんな人がいるから、望遠レンズで200メートル先からのぞいたり、写真撮ったりする奴はいるかもしれないけどさ……そんな人に当たる可能性なんて、交通事故くらいの確率でしょ。だって露天風呂利用者の平均年齢知ってたら、盗撮屋さんもあまり熱心には仕事しないと思うよ……若者向け温泉施設以外では、若い女の子率低いんだからさ。
 『若水』に限らず、露天風呂に入るたびに思う。こんなの露天風呂じゃないよー、外が見えないよー、と。

 水曜日だったのに、けっこー混んでた。平均年齢は、ものすごく高い。わたしはまちがいなく、最少年齢だ。
 お風呂はふつーに温泉旅館のお風呂。健康ランドのよーな設備はない。
 のんきに湯船につかってました。
 ただ、ゆうべ寝ていないというワゴンねーちゃんがのぼせて坐り込んでたな。

 お風呂だけなら、きれいだし気持ちいいし、でよいのだけど、食べられない和食とセットで3500円はわたしにはきついわ。
 2度目はないでしょう。

 でも、リベンジしたし!
 あの日逃げ帰った『若水』に入ったわ。ランチだけど。

 んでもって、この『若水』お風呂とランチのセットコースだが。
 ……風呂だけならたぶん、ただで使える……。
 チェックポイント、ないのよ。
 誰でも入れるわ、あのお風呂。
 ちょっとびっくり。
 予備知識さえあれば、何度でもタダで入れるよ。タオルその他のお風呂グッズも全部浴室にあるし。手ぶらで行って、内緒でひとっ風呂浴びて帰れるよ。

 ……いいのか、『若水』。太っ腹だな、『若水』。

          ☆

 ワゴンさんはどうして、ゆうべ眠っていないか。

 息子さんの試験勉強につきあっていたらしい。

 ……これって、ふつーのことなのかな……。
 一緒に起きていてあげないと、息子さん眠っちゃうんだって。
 先日はワゴンさんがつい、眠ってしまったために息子さんは勉強ができなかったそうな。
 ワゴンさんが、意識が途絶える前に見たページと同じページを開いたまま、机に突っ伏して息子さんも眠っていて、「とってもかわいそうだった」とワゴンさんは言う。「あたしさえ起きてあげていたら、あの子も起きて勉強できたのに」と。
 かわいそう? それ、自業自得って言わない? 勉強っつーの自分でするものだと思う……。
 だからワゴンさんは、息子さんの試験期間は、仕事を休むそうな。勉強につきあわないといけないから。

 それって、ふつーのことなのかな。
 今の若いおかーさんって、それがふつーなのか。
 ワゴンさんはさほど教育熱心なママさんではないし、息子さんの学校も進学校ではない。
 でも試験勉強で夜更かしや徹夜をするときは、横につきそってあげなきゃいけないのか……?
 ワゴンさんが教育熱心で、「怠けるなんてゆるさないわ!」と起きて息子さんを見張る、というのならまだわかるんだが。
「息子は、勉強というつらいことをしているんだもの、あたしも手伝ってあげなきゃかわいそうだわ」
 という心理がわからない……。つらくても本人の問題としか、わたしには思えないから。

 わたしはそれが不思議だったので、そのままのことを言ったんだが、ワゴンさんは「だってかわいそうだもの」としか言わない。
 うーむ。
 まあ、遊びに行く息子さんを「(自転車や徒歩で行かせるなんて)かわいそうだから」と車で送ってあげる人だしなあ。
 修学旅行とかで集合時間が早かったり、荷物があったりするときも、絶対送り迎えしてあげるもんなあ。「うちの子はあたしが送ってあげたからいいけど、車のない子はかわいそうだったわ、荷物を持って朝早く電車に乗らなきゃいけないのよ」……それも修学旅行ってもんだと思うが……。

 ワゴンさんはやさしくてかっこいい、すてきな女性だが、息子さんへの干渉の仕方だけはわたし、違和感あるんだよなあ。
 ワゴンさんと知り合った当初、息子さんたちのことを「ひとりで電車に乗せるのが痛々しいような年齢」の小さな子どもだと思って聞いてたもんなー、わたし。
 でも実際は息子さん、もう高3と中3で、見上げるほど大きな男たちなんだが……。


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