ほんの数年前のことだ。
 わたしは今の家に、家族3人で暮らしていた。
 祖父母とわたし。あと、猫1匹。
 1階が祖父母の部屋で、2階がわたしの部屋だった。
 だけど祖父母が相次いで亡くなり、猫も後を追うようにして逝き、家に残されたのはわたしと、新しく飼った猫1匹。

 気がつくと、1階の時計は止まっていた。

 祖父母の部屋であり、家族の団らんの場所であった1階の部屋には、振り子時計がひとつだけあった。おそらく、わたしの年齢よりも古い時計だ。
 まだわたしが幼く、祖父母が元気だったころには、毎時チャイムを鳴らしていた。それが、時が経つにつれチャイムはなくなり、時を刻む音も小さくなっていった。
 そして、祖父が亡くなり、1階に誰もいなくなったころ、時計もまた動かなくなっていた。

 おばーちゃんが逝き、おじーちゃんが逝った、誰もいない部屋で、振り子時計も、その役目を終えたんだ。

 電池を替えればまた、動くのかもしれない。新しい時計を置けばすむことかもしれない。
 だけどわたしはあえてそれをせず、止まったままの時計を置いている。
 昔、この家にはわたしの他に2人、家族がいたんだよ。この部屋で暮らしていたの。
 震災の朝には、おばーちゃんの布団にもぐりこんだよ。わたしの部屋は家具がすべて倒れてきて、「よく生きてたねアンタ」な状態だったから。
 おじーちゃんの布団には猫がいて、当たり前の顔で丸くなっていたよ。
 布団にはいると、よく見えた。天井に近い壁にかけられた、古い振り子時計。

 この家で、動いている時計があるのは、2階のわたしの部屋だけだ。
 あとの部屋には、どこにも時計は置いてない。

 ひとりぼっちになってしまった、結果のように。

 で。
 なにが言いたいかというとだ。

 1階で喋りこんでいたBe-Puちゃん、「ところで今何時?」「さー?」
 「あたし時計持ってないし」「あたしも今日携帯忘れたから、時計ないの。あそこの時計はずっと10時半だし」
 …………数日前に、6時間喋りまくって、午前様だったわたしたち。
 今回はわたしの家でまた、長っ尻。
 ちょっとぉ、もう11時じゃん! Be-Puちゃん、あれほど「今日は早く帰るからね!」と言い切っていたのに……。

 ごめんね、あの時計はもうずっと止まっているのよ。
 そして、2階のわたしの部屋は今、足の踏み場がなくて立入禁止なのよぉ。ほほほ。

 でもおかげで、『十二国記』をダビングできました。ありがとーBe-Puちゃん!

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